アプリケーション

スクラッチ試験

アプリケーションの概要

スクラッチ試験は、硬さを評価する最も古い方法の一つですが、同時に最も理解が進んでいない試験法の一つでもあります。これは主に、探針先端にかかる応力の状態が非常に複雑であるためです。しかし、より包括的な視点を持つことで、この状況は変わるかもしれません。

新しいナノインデンテーションツールを用いることで、スクラッチ試験中の変形プロセスを鮮明に可視化できるようになりました。それと同時に、深さ、垂直方向および水平方向の力、摩擦係数を測定し、さらに試験前後の表面形状をスキャンすることも可能です。この技術的進歩により、スクラッチ試験は現代の材料科学者にとって不可欠なツールとなりつつあります。

<p>Scanning Electron Microscope and surface topology images of a scratch test performed on aluminium.</p>

<p>Graphs displaying scratch depth, residual depth, coefficient of friction, and forces recorded during a scratch test performed on aluminium.</p>

<p>Scratch test topography providing quantitative data on material hardness and wear resistance.</p>

アプリケーション例

トライボロジー評価

トライボロジーと切削チップの形成

スクラッチ試験は、トライボロジーにおける摩耗メカニズム（特にアブレージョンやエロージョン）を理解する上で非常に重要です。この試験は、加工時に切削チップがどのように形成されるかについても知見をもたらします。

スクラッチ試験では、塑性すべり、粒子の回転・盛り上がり、せん断帯、押し出し、亀裂など、さまざまな材料の変形挙動を観察でき、貴重な技術的知識を得ることができます。

今回の応用例では、単結晶アルミニウム（SX）が滑らかな変形を示し、すべり面が重要であることが分かりました。一方、超微細粒アルミニウム（UFG）は、個々の粒子が動いていることを示唆するように、テクスチャのある切削チップを形成しています。さらに、バルクアモルファス金属（BMG）と Al-Cu 共晶合金のサンプルは、それぞれ鋸歯状の流れや局所的なスクラッチ硬さの変化といった独自の変形パターンを示しました。

0.5 nN		100 kN/m
力分解能		センサー素子の剛性

摩擦解析

材料の不完全性が切削抵抗と表面摩擦に与える影響

完璧なものは存在しません。特に工学材料においては、粒界のような「不完全さ」が、かえって合金の強度を高めることもあります。

in-situ 観察動画とスクラッチ試験のデータは、立方体コーナー型のダイヤモンド探針がサンプルの欠陥や介在物とどのように相互作用するかを明らかにします。これにより、切削チップの形成や、加工時のびびり振動がどのように引き起こされるかを理解することができます。

例えば、船舶用アルミニウム合金 5052 では、介在物が探針の貫入深さを減少させ、摩擦を著しく増加させています。一方で、バルクアモルファス金属（BMG）は、高荷重下でせん断帯形成による鋸歯状の流れが原因で、スクラッチ抵抗が低いことが分かっています。

0.5 nN		100 kN/m
力分解能		センサー素子の剛性

コーティングのスクラッチ試験

MoS₂ 固体潤滑コーティングにおける産業スケールでの課題の克服

二硫化モリブデン（MoS₂）は、さまざまな産業で利用されている人気の高い固体潤滑コーティングです。特に、従来の液体潤滑剤が使えないような真空、高荷重、放射線といった過酷な環境下で、軸受をドライ潤滑するために広く使われています。

しかし、研究室で作られる試作品と産業規模で大量生産される製品とでは、コーティングの内部構造（微細構造）が異なることが少なくありません。

そのため、MoS₂ コーティングが本来の性能を十分に発揮するには、土台となる材料（基材）にしっかりと密着し、コーティング自体もバラバラにならず強固にまとまっていることが非常に重要になります。