機械的な顕微鏡法

高クロム鋳鉄

高クロム鋳鉄（白鋳鉄）は、優れた摩耗性と耐食性により、鉱山、製粉、土砂処理、製造業など幅広い分野で使用されています。これらの特性は、材料の延性鋳鉄マトリックスと硬質炭化物相の高含有率の組み合わせに起因します。

本例では、機械的な顕微鏡法を用いた際に異なる熱処理が硬質相の微細組織の進化に及ぼす影響を調査しました。FemtoTools システム独自の変位制御により、相間の硬さ差が 5 倍あっても均一な特性評価を実現しました。

核材料

核材料は、特有の過酷な環境にさらされます。ジルコニウム製の燃料被覆管に生成される水素化物は材料を脆くし、使用済み核燃料棒の健全性に対する重大なリスク要因となります。機械的な顕微鏡法は、この水素化物形成によって生じる局所的な機械的特性の変化を、高解像度で評価することを可能にします。

本例では、ポール・シェラー研究所（PSI）との共同研究によりジルカロイ-2 中の水素化物を調査しました。高解像度の中性子放射グラフィと機械的な顕微鏡法を組み合わせることで、被覆管の壁に沿った水素/水素化物の局所濃度を特定し定量化することが実証されました。詳細は『Journal of Nuclear Materials』584号（2023年）154574 ページをご覧ください。

多相微細構造

微細構造内の個々の相の性質を抽出することは、その挙動を決定する上で不可欠なプロセスです。特に、インデンテーションの数が少ない場合、これらの結果が相の挙動を正確に反映しているかを確認するのは困難です。機械的な顕微鏡法を用いると、数千のデータポイントからなるマップを基に相レベルの性質を統計的に明らかにできます。

本例では、アルミニウムに銅を合金化した合金と Al₂Cu の金属間化合物からなる二相の共晶合金を機械的な顕微鏡法により特性評価しました。材料の微細な微細構造にもかかわらず、2 次元ヒストグラムにおいて両相の特性は明確に区別可能です。

著しく変形した微細構造

著しく変形した材料には、内部の塑性ひずみが非常に高いという特徴があります。これは材料の強度を向上させますが、電子後方散乱回折（EBSD）などの手法による特性評価を困難にします。機械的な顕微鏡法は、これらの材料の特性評価に高解像度な解決策を提供します。

本例で、機械的な顕微鏡法は、冷間圧延された 316L ステンレス鋼の粒内における優先滑り面沿いの局所的な不純物密度が増加することを明らかにしています。この変形は局所的な無秩序を増加させ、硬化に加え、局所的な弾性率の大きな変動を引き起こします。これにより、ひずみ硬化挙動に関する貴重な情報を得ることができます。

積層造形

積層造形技術は、複雑な 3D 部品の形状や新たな微細構造の製造を容易にし、現代の製造業に革新的な変化をもたらしています。機械的な顕微鏡法により、これらの新技術が微細構造の局所的な機械的挙動に及ぼす影響が明らかになり、加工パラメータの最適化が可能になりました

本例では、レーザー粉末床融合（L-PBF）で作製した 316L 鋼のサンプルを断面で観察しました。その結果、ビルド方向に沿った隣接する溶融プールによって形成された柱状の魚鱗状微細構造や、気孔、溶融プール境界での硬化などの欠陥が明らかになりました。

コーティングおよび表面処理の特性評価

ナノインデンテーションは、コーティングや表面処理の分析に重要な技術です。薄膜には上から下への圧痕を、厚いコーティングには断面での圧痕を用います。機械的な顕微鏡観法は、このナノインデンテーションの能力をさらに高めるものであり、単純な線グラフから、コーティングの厚さにわたる機械的特性の変動を高解像度でマッピングします。

本例では、機械的な顕微鏡法を用いて 5052 アルミニウム合金上の硬質陽極酸化コーティング内の局所的な特性を明らかにしています。機械的特性マップにより、孔隙率、亀裂、アルミニウム界面における密な接着層、およびコーティング表面に向かっての硬度と弾性率の勾配が明示されます。

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高解像度マッピング

機械的な顕微鏡法は、極めて浅い深さから広範囲にわたり適用でき、微細構造を高解像度で特性評価することを可能にします。これにより、1 ミクロン以下の微細な特徴も正確に捉えることができます。

本例では、中炭素鋼のパールライト微細構造を 250 nm という高い横方向解像で観察しています。優れた解像度により、パールライト粒内にある個々のセメンタイト層板を可視化することができます。真珠のような輝きを持つこの組織の名前の由来は、これらの層板が非常に狭い間隔で並んでおり、光を回折させることからなります。FemtoTools システムの業界トップクラスの感度を用いることで、こうした微細な特徴まで解析が可能です。

コールドスプレー材料

コールドスプレーで作られた材料は個々の粒子が堆積してコーティングを形成する際に激しい塑性変形を起こすため、高いレベルの内部塑性ひずみが生じます。これにより材料の強度は向上しますが、電子後方散乱回折（EBSD）などの手法で特性を評価することが難しくなります。このような材料の特性評価には、高解像度なソリューションとして機械的な顕微鏡法が役立ちます。

本例は、コールドスプレーにより成形された 316L ステンレス鋼の試料内に存在する粒子間の境界、局所的な多孔性、および欠陥を機械的な顕微鏡法を活用し、明らかにしています。その結果、プロセスのパラメータを最適化するための貴重な情報が得られます。

ラミネート材料

累積ロールボンディング（ARB）は、金属のナノラミネート材料を大量生産するのに魅力的な方法です。圧延、切断、積み重ね、再圧延を繰り返すことで、ナノスケールのラミネート層を持つ大きなシート材料を製造することができます。こうして作られた材料は、驚くほど高い強度と目的に応じて調整された特性を持つことができます。

本応用例では、エアランゲン・ニュルンベルク大学（FAU）のM. Ghanem 氏とB. Merle 教授（M. Goeken 教授の研究室所属）の研究グループが作製した鉄-青銅ラミネートを機械的な顕微鏡法で分析しました。その結果、鉄の層における組織の変化が、青銅の層に施された中間焼鈍処理の成功に影響を与えていることが明らかになりました。

大面積マッピング

機械的な顕微鏡法は、幅広い範囲に適用でき、特に広い面積に対して高い荷重をかけることができます。これにより、製造プロセスや熱処理によって生じる、ミリメートルからセンチメートルスケールまでの機械的特性の変化を迅速に評価できます。

本研究では、Seita グループ（元シンガポール南洋理工大学、現在ケンブリッジ大学）が共同で開発した、新しいバインダージェット積層造形技術と焼結プロセスを用いて意図的に機械的特性を変化させた材料を作製しました。その結果、意図的な特性変化と、金属粉末層の密度変動に起因する波状のパターンがはっきりと観察されています。詳細については、学術誌「Materials & Design 235 (2023) 112384」をご覧ください。